0444
2006-05-20
ひっさつわざ
 川原で二人のこどもがキャッチボールをしていた。
 最初はただ投げあうだけだったが、
興が乗ってくるうち、一人が大きく振りかぶって叫んだ。
「くらえ、ひっさつ! 消える魔球!」
 投げたボールは相手の前で地面を叩き、
跳ね返って相手の胸倉を直撃。
 あたったこどもは急に血の気を失い、顔面から地面に倒れた。
 周りの人間の助けもあってすぐに救急車が呼ばれたが、
こどもはその後死亡が確認された。

 そして、夜。
 ボールを投げたこどもの家に、
こどもを失った母親がやってきて、
その子と向かい合うと、言った。
「どうしてうちの子を殺さなきゃいけなかったの?」
「ち、ちがうよ。ぼくたちはただキャッチボールをしてて……」
 母親は冷たい目をこどもに向け、
「聴いたんだよ。あんたがひっさつとか言って、
あの子を殺そうとボール投げたって」
「ちがう。そんなつもりじゃ……」
「じゃあ、なんであんなこと言ったの。
ひっさつって。必ず殺すって。
最初から殺すつもりだったんでしょ?」
 がたがたと震え出すこどもの体。その母親は呪うように叫んだ。
「いまはこどもだからって許されるかもしれないけど、
わたしは絶対許さない。あんたはわたしのこどもを
殺そうとして殺した、残虐非道な殺人者なんだ!」