0468
2006-05-26
ヤサシイナニカ
 道端の木の葉が色づき始める頃。
 一緒に街なかを歩いていた彼女が小さなくしゃみをした。
「カゼ?」
「ううん、ちょっと寒くて」
「寒がりのくせに見通し甘いから」
 着込んでいたトレーナーを脱いで渡すと、
本気で寒かったのかいそいそと袖を通した。
 だぼだぼの服のせいでいっそう小さく見える彼女。
「あ……」
 かすかに声を上げて、優しげに目を細めた。
「なに?」
「ううん、なんでもない」
 柔らかな笑顔で首を振る。

 それから夕方までぶらぶらし、彼女を送って家まで。
「えと、これ、洗って返すね」
 玄関先で言う彼女に、
「いいよ、そんなの。着て帰る」
 実は結構寒いのをがまんしていたおれ。
 受け取って着ていると、ふわりと自分のものでない
においがした。
「ん……」
 服に残る彼女のぬくもり。静かに漂う甘い香り。
 彼女に包まれているような、
その存在をすぐそばに感じられるような。
よくわからない感じだけれど、胸がなんだかあったかい。
「え、なに?」
 彼女がきょとんと訊くけれど、
「ううん、なんでもない」
 おれは小さく首を振った。