0480
2006-05-30
ヒビノウロコ
 暑い暑い夏の日。滝のように落ちてくるプールの水の下に
一組の親子が入った。
「うわあ、痛い痛い」
 声を上げるこどもに父親は目を細め、
「そうだろう? 高いところからものを落とすと、
水だってこんなに痛くなるんだ」
 そして家に帰ると、ベランダからビー玉を落とし、
こどもと一緒に観察する。
「ほら、どうなった? こんなビー玉だって、
高いところから落とすと地面に穴だって開けるんだ」
 庭に開いた穴を目を輝かせて見るこどもの頭に手を置いて、
「じゃあ、空の高い高いところから水をこぼしちゃったら、
どんなことになると思う?」
 不安気に空を見るこども。
「怖いね、危ないね」
 父親はぐしゃぐしゃと髪を撫で乱すと、笑った。
「ところがだいじょうぶ。空からの水は、雨だろう?」