0481
2006-05-30
犯罪構成要件
 放課後の職員室で男の子が先生に叱られていた。
「なんであんなことしたの?」
 と訊かれると、
「だって、あいつがやれって言うんだよ」
 その言葉に顔を曇らせる。
「それじゃあ、あの子がやれっていったらなんでもするの? 
死ねと言われたら死ぬわけ?」
「……あのさあ、先生」
 こどもは言う。
「いきなり極論で言うの、卑怯だと思わない? 
『君の愛のためならなんだってできる』っていう男に、
『じゃあ死んで』って言うわけ? 
愛があるなら死ねる→死ねないのは愛していない→
自分を愛していない、って三段論法でもしたいわけ?
 もちろんぼくだって、死ねと命令されたなら、
死ぬ前にあいつを殺すさ。でもあいつはぼくに死ねなんて
言わないし、ぼくだって憎んだりはしてない。
そんなことも先生の目には見えないわけ? 
だからもしいじめで他の奴が死んでも、
うちのクラスにはいじめは無かった、
気づかなかったとか言うんでしょ?
 普通こどもが命令されてやるとしたら、
やらないほうがひどいめにあうか、自分でもやりたいけど
自分ひとりじゃできないことを命令と言う
大義名分に基づいてやるかくらいじゃない?
 まあ今回は、命令されて強要されたわけで、
ぼくには犯罪の意思がなく、犯罪構成要件からも外れるわけだよ。
ぼくを叱るくらいならあいつを使用者責任なりなんなりで
まず叱って欲しい」
 そして男の子は教師の目を見ると、言った。
「ほかになにかご質問は?」