星が降ると言われた日。息子を連れて山の上に行った。
暗さに目をならして降り始めるのを待つ間、
ぼくはそこらへんにある長い枝を拾って
空に向かって突き上げ続けた。
「なにやってるの?」
訊ねる息子に。
「見ていればわかるよ」
そしてしばらくたったころ、空に一つの星が流れた。
「あ、ほし〜」
「見えた? パパの枝が星に当たって、落としちゃったな」
ぼくが言うと、
「うそだぁ」
こどもながらにうさんくさそうな目でぼくを見た。
「ほんとだよ。世の中には絶対真実角度というものがあって、
角度さえあえば何だってできるんだ。
こんなちっぽけな枝でも星さえ落とせるんだよ。……ほら!」
角度を変えながら星に向かって枝を刺せば、
きらりと滑って行く光の筋。
「まだまだいくよ」
ぼくは調子に乗って星を付き、
息子はそのたびに空から落ちて行く星を
驚きに満ちた目で見つめていた。
……むふふふ、信じてる信じてる。
これだからこどもに嘘をつくのはやめられない。
それから三か月後、里帰りしていた妻が娘を産んだ。
出産間近だと言われて駆けつけたが、
いくら待っても産声は聞こえず。
沈痛な面持ちの医者に許可されて部屋に入ると、
妻は疲れた顔に落胆の色を浮かべて、小さな布を抱えていた。
「赤ちゃん……死んじゃった」
そっと傾けた中にあるのは、ぎとぎとして
血にまみれた何かできそこないの生き物。
「ほら、見て。あなたの妹になるはずだった子」
口をとがらせて何を考えているかわからない息子に
妻が見せると、息子は小さな手で
さらにちいさな頭に手刀を入れた。
「こ、こら。なにするんだ」
あわてた瞬間、
「ふぇ……」
小さな何かの音。
そして、
「びゃぁああああ! びゃぁああああ!」
あれほどぐったりしていた生き物が、
赤ん坊のように大きな声をあげて泣き始めた。
その場にいた人間のだれもが凍りついたように言葉を失い、
ぼくはぶるぶると震える腕をおさえられずに訊ねる。
「いま……何したんだ?」
息子はにいっと顔いっぱいで笑い、言った。
「ぜったいしんじつかくど!」