0524
2006-06-09
白い渇望
 テレビ局が超能力者には莫大な出演料を出すと宣伝し、
募集の日には数多くの有象無象が集まった。
「必要な物があれば言ってください」
 審査員が申し出ると、最初にステージに上がった男は
スプーンを求めた。
「これからスプーンを曲げます」
 男は言い、スプーンを持った手に祈るようなかっこうをとる。
 そして何分後かにスプーンの頭は
しおれる花のように曲がってゆき、その頭を床に落とした。
その瞬間、男は一仕事をやりおえたような
喜びを顔に映すのだった。
「なるほど。それはわたしにもできますよ」
 審査員は言い、自らもスプーンを一本取ると両手でへし曲げ、
頭をもぎおとして、
「次のかた、どうぞ」

 そこで出てきたのは、手にポラロイドカメラを持った女だった。
「わたしが念をこめて写すと、移るはずの無いものが写ります」
 女は額にカメラをあて、力をいれるようすをしたあと
シャッターをきった。何十秒かして写し出された絵には、
ぼんやりとした光のようなものが写っている。
「なるほど」
 審査員が言うと、そばに置いてあったプリンタから
印刷物が吐き出される。
「これをどうぞ」
 そこに印刷されたのは、目の前の女性の顔だけが
宙に浮かんでいるもの。
「それくらい、合成写真でももっといいものができますよ」
 破り捨てて次の人間を呼んだ。しかし次もその次も、
あらわれたのは似たり寄ったりだった。
 そのまま何百人かの審査を続け、
がまんできなくなった審査員は叫んだ。
「壊すだけなら超能力なんてなくてもできる。
だれか、物を生み出すこと、
なにかをなおすことのできる人間はいないのか!」