「人生で、向かうべき方向はある?」
師匠がわたしに訊ねた。
「そうですね、ありますよ」
一応……、と付け加える。
「そう、うらやましい」
師匠は顔に刻まれたしわを深くして目を細めた。
「人生は綱渡りのよう。
二点が定まっていれば途中どんなに揺れても、
向かう場所は変わらない。もし一点しかないのなら、
途中揺れたら跳ね飛ばされたり行方を見失ったりしてしまいそう。
けど、それならあなたはだいじょうぶ」
「ところが」
わたしは言う。
「わたしはぴんとはりきったロープ。
固定されているだけに、あまり揺れすぎると引きちぎれますよ」