0528
2006-06-11
ボールは契約
 会社の即席メンバーで水球の試合が行われた。
 使うフォーメーションはひとつ。
『販売会社』と名づけたその作戦は
たった一人がボールを奪いに行き、
残りの六人はゴールも放っぽって周りに張り付き、
ボールの動きを追うというものだ。

 そして試合になると、ボールを狙う一人は
水の中の見通しが悪いのをいいことに、
見えないようにありとあらゆる手段を使った。
相手の腹に膝を入れ、急所をけり、時には甘い言葉をささやき、
ボールを手に入れる。
 そのボールを握り締めると、相手ゴールの方に向かって……
「あとは勝手にしろ!」
 叫びながら力一杯放り投げた。
 誰も味方のいない場所に落ちたボールは、
やすやすと敵の手に落ちる。
 そんなプレイを繰り返し、試合は負けで終了した。
 水から上がったメンバーたちは憤った顔で、
ボールを奪いに行く役の営業をとりかこみ、叫ぶ。

「なにやってんだよ!」
「ボールをとったからって、
遠くに投げればいいってもんじゃないだろ」
「近くてもチームで連携しながら
進めばもっといいところまでいけるんだ」
「取ったところで満足して投げっぱなしにするから、
結局はボールを相手に奪われるんだろ!」
「なりふり構わず汚い手段を使っても
ボールを取ればいいっていう態度はやめろよ」
「みんなが納得できるような形でボールを取れよ」
 だが、あきれたような目の営業は鼻から息をこぼし、
「なに言ってんだよ」
 ほとほとうんざりしたように口にした。
「販売会社だぞ? おれがボールをとらなかったら
おまえらが仕事すらできないのがわかんないのか? 
おれは取る人、おまえら支える人。おわかり?」
 そしてぐるりと顔を見回し、
「おれが取ったボールを投げてやるから、
おまえたちはそれをちゃんとキャッチして
サポートすりゃいいんだよ、このクズども」