0529
2006-06-11
おれさまの道
 いつも営業成績が一番の人に付き合ってくれと言われた。
顔もよかったし、できる人だったから付き合い始めたけど……。
最近、すごく不安になる。
「ちょっと、どうなってるんだよ」
 今日も、お客さんの電話。
「あんたんところの製品さ、
安いからって買ったのに、なにこれ。
壊れるまで使えるかと思ってたら定期交換部品ってなによ。
こんな高いのぼちぼち買わなきゃいけないわけ?」

 不満そうな声に、わたしはぐっとおなかに力を入れて説明する。
「振動機器や回転部のある機械には、
主要部品の磨耗や欠損を防ぐため、そ
れを和らげるものがついています。
主要部品が壊れてしまいますと本体の交換や、
比べ物にならない費用が必要になってしまいますが、
定期交換部品があることにより、
全体が壊れる疲労をそれが変わりに引き受けて
製品が壊れるのを防いでいるのです」
「そういうものがついてるの?」
「はい。本体説明書にも記載されております」
「そんなの知らないよ。うちであんたのとこと契約して、
使うようにしてるんだからさ、そういうことって
はじめに説明してくれたっていいんじゃないの?」
「お客様の御意に添えず申し訳ありません。
その他ご質問などありましたら担当の者より
説明さしあげるようにいたしますので、
弊社営業ご存知でしたら氏名をお教え願えませんでしょうか」
「ん〜? ああ、名刺あるよ。えーと……」

 また、彼だ。

「ねえ、気にするようになってからでも、
あなたのとった契約でくだらない文句が結構来てるよ。
大事なこと、言ってないの?」
 おごりだと誘われた洒落たレストランで。
向かいに座る彼に言うと、なにも気にしないように笑った。
「まさか。定期交換だの補償範囲だの、
いるものはちゃんと言ってるさ」
「説明は? どれくらいで交換していくらかかるとか、
本体の修理だったら何日かかっていくらしそうだって、
ちゃんと話してるの?」

 おかしそうな声をあげて、
「まさか。そんなのいちいち説明してたら
契約なんてとれないって。
いかに自分の有利な点だけに注意をひきつけて、
いかに欠点は隠すか。それが営業の極意だろ」
「それは……違うと思う。そのせいでわたしたちが取り繕うのに
どれだけ苦労してると思う? そのとばっちりを受けるのは
罪もないお客さんだし、回り回って信頼を失うのは、
自分たちの会社なんだよ?」
 わたしの言葉にすこし不満そうな表情を浮かべ、
「それをどうにかするのが、君たちの仕事だろ?」
 そう言われて、なんだか自分がすごく情けなく思えた。
「あなたたちは、戦闘機で敵を撃墜して
手柄を立ててるような気分かもしれない。
でも、それを支えてる人がいるのもわかって欲しい。
わたしたちのこと、飛行機のネジの一本くらいにしか
思ってないでしょ」
「まさか」
 彼は言った。
「機体を拭くボロ布くらいがいいところだろ」