0536
2006-06-12
営業担当と飼い犬
 休日の川原で、会社で営業担当の男が飼い犬と戯れていた。
「ほーら、今日はいいものがあるぞ」
 男が紙袋を開ける前からその中身に心を奪われていた犬は、
ようやく取り出されるものに半狂乱して
自分に与えられるのを待った。

「これはおれが苦労して苦労して
ようやく手に入れた肉付き骨だ。肉もまだたっぷりついてるし、
なによりでかいだろう?」
 目の前で見せびらかすと、犬はよだれを撒き散らして
その時を切望する。
「ははは、欲しいか。欲しいだろう? 
おまえは会社のばかどもと違って正直でかわいいな。
欲しいなら欲しいって言えばいいんだ。
なのに文句ばっかりぬかしやがる」
 一人愚痴て骨を握り締めると、
彼は力の限りにそれを上のほうに向かって投げた。
「さあ、欲しいなら受け取れ!」

 丸投げされた骨は大きな放物線を描き、犬が追う先、
はるか川の真ん中に落ちる。
「あははは。相変わらずコントロール悪いな、おれ。
ほら、どうした? 欲しいなら取りにいけよ。
会社の連中ならこれくらい難なく取りに行くぞ」
 頭に載せられる手に噛み付く犬。
「な、なにすんだ!」
 だが犬は牙をむき出し、低くうなると――
 男の喉元に向けて飛びかかった。