サークルのメンバーで旅行に行き、民宿に泊まった夜。
お風呂に入っていると男の子たちの方から声が聞こえた。
なんでも気になっている彼が一人先にあがるらしい。
そこでわたしもさっさとお風呂からあがって、
人数分だけ広い男子の部屋に遊びに行くと。
予想通り、湯上りっぽい彼だけが部屋にいて体を冷ますように
ぽけーっと壁によりかかっていた。
「どーも。すっぴんで失礼します」
冗談めかして言いながら入って行くと、
「化粧をしてないと失礼なの?」
彼はわたしの顔をまじまじと見つめて訊いた。
「そりゃあ、だって礼儀みたいなもんだし」
でもかわらずじーっと見て、
「おれは今のほうがいいと思うけど」
「男性にはそれでいいかもしれないけど。
女性にはそうはいかないんだよ」
湯上りでない赤みが頬にさしそうで、
目をそらしながらわたしは言った。
「じゃあ、化粧は女同士見せ合うためにやるわけ?」
「そう言われると……違うけどさ」
「いつも気になってたんだよ。
もっとまともな化粧にすればいいのにって」
まとも。
その言葉に多少ぐさっときた。
「うるさいなあ。お化粧もあれで結構難しいんだよ。
そういうならやってみればいいじゃない」
「のった」
「え?」
「道具は?」
体を起こしてわたしのそばに。
「ええ〜。わたしにじゃないよ。自分で、自分で」
「おれが化粧してどうするんだよ。ほら、いいから」
いやだったけど……彼にならいいかと思って、
お化粧道具を取ってきた。
そばに近づく彼の顔。その指がわたしに触れて、
恥ずかしさに泳いでしまう目を閉じる。
「顔の色変わるほどはたかなくたって、軽くでいいと思うけどな」
ぱたぱたと肌をたたいていくスポンジ。
「ちょっと〜、変な顔にして笑うなんてなしにしてよ」
「だいじょうぶだって」
彼は答えてそのまま続けた。
「もみあげも長すぎるから落とすよ」
「え? ちょ、ちょっと……」
「刃物ならまかせろ」
そういうことじゃなくて〜。
とまどう間にもじょりじょりとなにか切れて行く音がする。
そして、首筋も。
それからすごい音がして、下から熱い風が来た。
「こんなんで適当に上げて、どう?」
軽くドライヤーをかけて、これでできあがりらしい。
特に何をやってたわけでもないのに、
いきなりお化粧なんてできるわけないじゃない。
なんだか取り返しのつかないことになってしまった自分に
あらかじめ落胆しながら小さな鏡を見ると……
「え?」
「ほら、かわいい」
そこにいるのは、いつもと違うわたし。
そこへ、ばたばたと足音が聞こえ、中へ知った顔が入ってきた。
「卓球してきた〜」
笑顔で入って来た友達がわたしの顔に目をとめて。
「あれ? お化粧変えたんだ? いいじゃない」
にっこりと笑う。
「ねえ」
わたしは振り向いて彼に呼びかけた。
「もう一回やってください」