0563
2006-06-19
届かない叫び
「ちょっとよりたいところあるんだけど、いい?」
「なーに?」
 休日の街で友達のあとについていくと、向かったのは市役所。
「なにするの? こんなとこで」
「不在者投票」
「へえ〜」
 薄暗い安っぽい廊下の奥、小さな一室がその場所のようだった。
 券を持たないわたしは手前で止められ、
しばらくして投票を終えた友達と合流する。
「ねえ、選挙、棄権はよくないよ。
白票でもちゃんと投票すればいいのに」
 彼女は言った。

「棄権してるつもりはないよ」
「どういうこと?」
「選挙に行って白票を入れてくるって、どういう意味?」
 質問に質問で返すと、
「それは……選ぶような人なんていないってこと?」
「でしょ? 選挙制度に基づきながら、
投票に値する人がいないというだけの主張。
でもわたしは違う。今の乱暴な選挙制度自体を認めてないから、
投票しないことで選挙制度への疑問票を投じてるんだ」
 そして彼女に目を合わせ。
「今、選挙に行かない人も少なくなくいるって話だけど、
なんでそれを『棄権』なんて言い方で捨てちゃうの? 
声はなくても沈黙じゃない。選挙自体に対する反抗を、
わたしたちは精一杯叫んでるのに」