学校からマンションに帰ると、
ちょうどエレベーターにあの子が乗るのが見えて、
おれはあわてて駆け込んだ。
話したこともそうないし、今もほんの何秒かだけれど、
一緒になれる時間はうれしい。
……と。がたんと揺れてエレベーターが止まった。
しばらく待っても動き出す気配もなく、
あの子は振り返っておれを見た。
ここはいいところを見せなきゃと、
初めて非常用ボタンとやらを堂々と押す。
が。応答はない。微妙な雰囲気が
この小さな箱の中にあふれはじめる。
「まあ、だいじょうぶだよ。たぶん立て込んでるだけで、
異常自体は見えてるはずだから」
無駄な笑顔を作りながら、ふと思った。
そうじゃなくて彼女が恐れているのは、
ここでおれとふたりきりになってることじゃないのか?
そこでおれは無害ぶりをアピールしようと話しかけた。
「ここでぼーっとしてても微妙に不安になるだけだし、
なんか話でもしようか」
……と言っても、どんな話があるってんだ。
瞬間、おれはテストのときにもできないくらいの速さで
過去の記憶をかきあさり、一つの話題を見つけた。
「そうそう、こんな話を聞いたんだけど」
こほんと咳払いして、話し始める。
「『人喰いエレベーター』」