0581
2006-06-22
三つの夢
「ねえ、知ってる?」
 わたしの準備ができて、あの子がわたしに呼びかけた。
「この世界は、三つの夢でできてる」
「三つの、夢?」
「そう。一つはいわゆる、『夢』。
眠っているときに見るようなもの、だね。
もうひとつは望み、とか欲望とかの『夢』。
そして最後は現実、という『夢』」
「夢? 現実が?」
「うん。この世界は、確固としてあるように見えても、
じつはひとりひとりが違う現実を夢見てる。
だから、同じものを見てても見え方はそれぞれ違う……って
言ってわかるかな」
「また人形と話してるの?」
 突然後ろから、嫌そうなおかあさんの声。
「お願いだから、外でそんなことしないでよ」
 わたしを変なものでも見るような目で部屋を出て行った。
「ほら。あの人にわたしは映らない。わたしの声も届かない」
 彼女は言った。
「もし自分の思い通りに絵を描く才能が二人にあったとしたら、
あの人が描くわたしと、あなたが描くわたしは
同じ姿になると思う?」
「全然、ちがうと思う」
 わたしは小さくため息。
「そうだよね。でも、わたしはいつだって
あなたの近いところにいるよ。……おねえちゃん」