0583
2006-06-22
不老長寿
 小学生たちが施設に見学にやってきて、
その説明をわたしがすることになった。
 この群れの中には、将来わたしたちのように
研究者になる子もいれば、水棲生物保護に
お金を出すような子もいるかもしれない。
そう思うと自然に力が入る。
「はい、これはオオサンショウウオ。
生きた化石と呼ばれるくらいで、
四百万年も変わらずに生き続けているんですよ」

 うわー。すっげぇ!
 そこかしこからあがる声。幼い顔が知的に輝くのは、
この子たちと同じくらい魅力的だ。
 と、柵のそばにいる二人が真剣な顔で
なにかつぶやきはじめ、思わず耳をそばだてる。
「そうだ……おれを殺せ」
「何を言う、一緒に生きていこうと言ったじゃないか」
 その視線の先には一匹を踏みつけるもう一匹のサンショウウオ。
 どうやらそれにセリフをかぶせているらしい。
「だが、もう疲れたよ。
死んでいないだけのただ生きるためだけの生。
おれたちはなんのために生きつづけてきたというんだ」
「しっかりしろ! 周りが死に絶えたあの惨劇を、
おれたちが語り継がなきゃいけない」

 熱いやりとりとは裏腹に、
いつものようにのっぺりした顔でふわふわ歩く黒い姿。
「しかし、長い年月の間に記憶も薄れた。
環境もすっかり変わってしまったよ。……四百万年は長すぎた」
「ちょっとまって」
 わたしは思わず口をはさみ、背をそらすように二人が見上げた。
「さすがに一匹がそんなに長生きするのは、無理」