その電車が通過駅にさしかかったとき、
何かを跳ねる音と衝撃が伝わってきたのを運転手は感じた。
あわててブレーキを引くと、
女性の叫び声のような音を立てて車体は減速していく。
「まさか……! 客をひいたなんてのはやめてくれよ」
手袋の甲で額をぬぐい、気を静めながら
停車する旨の車内放送を入れ、祈るような気持ちでドアを開けた。
重い体。しぶしぶ短いはしごを降りていると、
駅員が走ってホームの端まで来て叫んだ。
「だいじょうぶです。ほぼ、だいじょうぶ!」
それを聞いて、彼は安堵のため息まじりにつぶやく。
「よかった、死んだのは客じゃなかったか」