0592
2006-06-26
ルール
 ばかやったのがバレて
オヤジに部屋に閉じ込められていた日。
暇で寝転がっていたおれのそばに来たのはいとこの兄ちゃんだった。
「よう、なんかやっちまったんだって?」
 いたずらっぽく笑う小脇には、木の箱のようなもの。
「それ、なに?」
「ああ、やるか?」
 兄ちゃんが箱を開けると、中には
ぼちぼちと点が彫られた板が一枚と、
チェスの駒のようだけどどこか民族っぽい
彫りこみがされた木の人形がいくつも入っていた。
「なにこれ、どうやって遊ぶの?」
「どうだと思う? やってみな」
 多分、チェスもどきだろう。そこでおれはそれっぽく
自分の分をならべてみる。
「ふむ」
 兄ちゃんはうなづいて、向こうにも似たような形で並べた。
「これであってんの?」
「まあ、いいさ。じゃあやろうか。おれからな」
 そういって駒の一つを手に取るとこっちの方まで持ってきて、
駒でおれの駒を蹴り落とした。
 それなら、とおれも自分の駒をとって
兄ちゃんの駒に向かっていると、
兄ちゃんはまた別の駒を取り、おれの駒を落とす。

「なんだよ〜、おれの番だろ?」
「そんなことだれが言った?」
 悔しくて手を伸ばすと、兄ちゃんはおれの手をひっぱたき、
おれの手から駒が落ちた。
「くらえ!」
 そして手にしていたのを投げつけて、
おれの方の駒をめちゃくちゃにする。
「こんなのつまんないよ。何がやりたいんだよ」
 離れようとすると兄ちゃんはおれの手をつかみ、目を見て訊いた。
「なあ、スポーツにしても何にしても。
ゲームをおもしろくするものはなんだと思う?」
「え〜? なに。攻め合い?」
「今のがおもしろかったか?」
 言葉に詰まると、兄ちゃんは。
「ルールだよ」
 静かな声で口にした。
「これがなくちゃお話にもならない」
 責められたようで思わず目をそらすおれに、
「学生時代が楽しいのは、まぶしいのはなぜだと思う? 
そして、現実がおもしろくもなく
やってもいられない気分にさせるのは、なぜだと思う?」
 兄ちゃんは続けて、そう訊いた。