0599
2006-06-27
「太陽の光というのは非常に強いエネルギーを持っている」
 授業で先生が言った。
「でも地球もたいしたもので、
入ってきたときに30%をまずはじき、
なんだかんだで到達するのは50%程度にまで抑える。
しかも外部からの不快な刺激に対しては
熱を放出して温度があがりすぎないようにしてるんだな。
こうして入る熱と出る熱の収支が合うようになっている。
……ところが」
 かつかつと音を立てながら黒板に絵を描いて、
「地球を覆うものが厚くなると、温暖化がおこりはじめる。
外部からの刺激は地表に達し、地面はそれに熱を出して
対処しようとするが……。でもそれは温室効果ガスのせいで
外に出られず、こもったままとなる。これが初期症状だな。
 それがさらに進むと外からの刺激に対して
反射をすることもできなくなる。今までは温室効果ガスを
放出したり調整したりする機構もあったのが、温
暖化のせいで氷が溶け、木も草も枯れはて、
熱を下げることもできなくなる。
そして今度は内部温度が上がり始めるって感じかな。
外からの刺激があるたびに、反応は外へ向かうのではなく、
中へ向かうようになる。外に出しても無駄だと
わかっているから。そして自分をぼろぼろにと壊していく。
これが中期症状だ。
 そして末期はほとんど、もしくは完全に壊れきる。
もう外部の不快な刺激に対しても
それほどひどい反応は起きない。
逆に、快の刺激にたいしてもあまり反応しない。
すべてがおだやかで死に絶えたような状況」
 そう言ってまた硬い音を立てて黒板に文字を書いた。

  『温室効果ガス』=
  『地球』=

「いいか〜、なにも心理の授業で
温暖化の説明をしたいわけじゃない。
地球は人間、もしくはその人のこころだ。
それを温室効果ガス、すなわちあきらめが覆うと、
外部への廃熱、とくに怒りの発露を妨げる。
そしてあきらめは無力感となり、自分を壊す原因となる、
とこういう図式だ。つまり温暖化=『   』。
これはテストに出すから覚えておくといいぞ」