0619
2006-07-03
赤い老人
「そろそろクリスマスだね」
 遊びに来た姪っ子を膝に乗せ、
「もうサンタさん来るのかな?」
 揺らしながら訊ねると、突然じゅるじゅると
目から鼻から口から体液をこぼしながらしゃくりあげ始めた。
「え? どうしたの?」
「サンタさん、やだぁ〜」
 こっちまでもらい泣きしてしまいそうなほどの震える声。
「どうして?」
「だって、サンタさんこわいぃ〜」
「ええ? なんで、なんで? サンタさん怖くないよ」
 なだめながら訊くと、
「サンタさんって、真っ白な雪の中に、
血をこぼすみたいに真っ赤な服着てるんでしょ?」
「う、うん、まあ……そうだね」
「それで、羽もないのに空を飛ぶ九匹のケダモノを
連れてるんだって。
その中の一匹は鼻がマグマみたいに赤くて、
動物なのに光るんだって」
 まあ、たしかにそんな話だけど。
「サンタさんは『ほっほう』って低い声で吠える、
小山みたいにおっきくてぶよぶよで、
顔は毛むくじゃらのおじいさん。
煙突とか窓からとかから入れて、こどもが寝てるところに来て、
枕のところに何かを置いていくんだって。
おとなには見えないから、あたしに近づいてきても
おとうさんたちにはどうしようもないって」
 いいながらこみ上げるのか、ずるっと鼻をすすって、
「もし、起きちゃったらどうしよう。
何か変なのがそばにあったらどうしよう……」
 わたしはなだめるように小さな頭を撫でて、言った。
「それ、全部合ってるけど、全部間違ってる。
……だれから訊いたの? そんな話」
 するとその子は、わたしを見て、言った。