貧しい者が富める者に言った。
「金のある暮らしというのはさぞいいものなんだろうな」
富める者は応えた。
「いいや。光には影がつきまとうものだ。
つねにこの金がなくならないか、なくなったらどうするかと
悩まされながら暮らしているよ」
それを聞いて貧しき者は言った。
「そうか。ならば金がないというのは金を失う悩みも
ないということか。意外に幸せなのかもしれないな」
歩き去る貧しい者に、富める者はつぶやいた。
「金がなく、飢える恐怖があるよりも、
金があり、無くす恐怖がある方がどれだけましか知れないけどな」