部屋に帰って座り込むわたしに
けむくじゃらの相棒がすりよってくる。
きゅーん、きゅーんと心配そうな声。
「ありがと。わたしのこと心配してくれるなんてきみだけだよ」
頭を抱いて、首の下をこちょこちょ。
嬉しそうに目を細めるこの子と一緒に床に寝そべった。
会社帰りの心やすらぐひとときだ。
「ね。わたしがいないときって、何してるの?」
きょとんと見つめ返すつぶらな瞳。
「なんて。わかんないか」
でもなんだか興味が止まらなくて、
友達に頼んで部屋にカメラとマイクをつけてもらった。
そして次の日。会社のお昼休みに携帯電話で
部屋の様子を見てみると、置いて行ったお昼ごはんの周りを
うろうろしているところだった。
「あはは」
なにやってるのかな。どこから食べようか伺ってたりして?
「……どうするかな」
え?
声が聞こえた気がして、思わず耳を近づける。
「今食べると、また夜まで長いかもしれないし、
もうすこし後にするべきか……。そもそも彼女は働きすぎなんだ。
もっと早く帰ってきて、一緒にたっぷりくつろげたらいいのにな」
意外と渋い声。
え? え? あの子がしゃべってるの?
戸惑いもあったけどそれよりも嬉しくて、
わたしは急いで家に帰った。
「ただいま〜!」
玄関でわたしを見上げ、嬉しそうにしっぽを振る犬くんに。
「ねえ、きみほんとは喋れるんでしょ? なんで黙ってたの〜」
しゃがんで目を合わせ、頭をなでると、
首を傾げてわたしを見た。
「またまた〜。今日見たんだよ。
『一緒にたっぷりくつろぎたい』って言ってたでしょ?
どうして今まで話してくれなかったの?」
すると、
「ぼくらときみのためさ」
あの子が答えた。
「わぁ、やっぱり! どういうこと?」
「言葉があると、伝えられないものがある。
言葉より大事なものがある。だからぼくたちは
黙ってただ体を寄せる。それがぼくたちの誇りであり、
ぼくたちのすべてでいいんだ」
「そっか……キミたちもいろいろ考えてるんだね」
温かな頭を強めになでると、あの子はわたしの鼻を
楽しそうにびしゃびしゃ舐めた。