0652
2006-07-13
死ねと励ます
 わたしの元生徒が、死んだ。
 はがきに誘われてお葬式に出ると、
周りの話からはどうやら自殺したとのことだった。
「毎日毎日会社から帰ってくるのが遅いし、休日出勤もあるし、
かわいそうでずっと励ましてきたんだけど……」
 声の方を見ると、どうやらその女性は彼の母親のようだった。
「ちょっとすいません。励まし、とはどのような?」
 思わず歩み寄って声をかけると、
「今はどこの会社もそうだし、あんただけじゃない、
がんばれ、って」
 ぐっとわたしの胸が詰まる。
「それは励ましじゃなくて、突き放しですよ」
 胸からあふれる言葉。
「つらいなら休んでもいい、そうつらさを
だれかに認められたのなら救われもし、
死ぬより会社を辞めるほうを選んだかもしれません。
でもその逃げ道を断って自分を壊れるまで使うように
後押ししたのはあなただということをおわかりですか」
 と、このお幸せな偽善者、そして一人悲劇ぶる母親に
吐きつけてやりたかったが、言ったところで
今さらどうにもならず。言われる悲しみは痛いほどわかるため、
わたしは言葉を飲み込んだ。