教科書を読んでいたら、10という文字が
突然紙から起き上がり、声を出した。
「よう。おれがなにかわかるか?」
「なにかって……十でしょ?」
にゅっと延びた手、白い指を振り、
「ところがそうともかぎらないんだなあ。
こう見えても2かもしれないし、8かもしれない。
見たまま10かもしれないし、意外と12か16かもしれない」
「え? え? だって、10は十でしょ? みかんが十個」
「そりゃ十進数の場合だろ。二進数なら、0、1、10」
「え? え? え? 10なのに、2?」
「八進数なら0、1、2、3、4、5、6、7、10。十二進数なら……」
「ま、待って、待って、やめて。10は10でしょ?」
「それは君の目、十進数の目で見たおれさ。
他の人から見れば、おれだって2や4や6や8や13だったり
するかもしれないんだ」
「う、うそ! やめてやめてやめて……」
と、突然の地震。
ぶ?
……いじょうぶ?
「だいじょうぶ? おきて、おきて」
んむ?
「あ、起きた〜」
お姉ちゃんの声。
「だいじょうぶ? ずいぶんうなされてたけど」
「あ、うん」
思い出す、夢の中身。
思わずおねえちゃんをじっと見た。
「どうしたの?」
まごついたように笑う顔に。
「おねえちゃんって……ほんとにおねえちゃん?」