人を信じて裏切られ。金も家族も仕事も失った。
再就職もことごとく断られ、
自分で作ったわけでもない借金は返すあてもない。
「もう……だめだ」
借家のアパート、ドアノブに紐をかけ、頭を通す。
あとはこれで、しゃがみさえすれば。
……怖い。
この世だって散々怖かったのに、
なぜ別の場所に行く事がこんなに怖い?
おれがいるような場所はもうこの世界にはないってのに。
「なあ、なぜ死後の世界のことは知らされず、
未知のままだと思うね?」
上から穏やかな声。顔をあげれば、昔死んだじいさんが
上のほうからおれを見ていた。
不思議と怖さは感じなかった。
おれが首を振るといたずらっぽい笑いを浮かべ、
「そりゃあ、わかっちまったらみんなこっちに来ちまうからさ」