――ドバン!
すごい音を立てて玄関のドアが閉じたようだった。
この台風の中でかけるなんて何考えてんだ。
あわてて玄関に行き、扉を開ける。
すごい風に押し戻されそうになっていると、
向こう側から引かれて倒れそうになった。
「なんだ、なにやってんだ?」
おれを支える手。
「おやじがどっか行こうとするから様子見に来たんだよ」
風の音、雨の音にふたりでどなるように
声を出しながら中に入った。
扉を閉めて、轟音がどこか遠いものになる。
「ふは〜」
ふたりため息をつきながら玄関に上がると、
「どうしたの?」
母さんがやってきて訊ねた。
「いや、それがな。隣で出てく音がしたから見に行ったんだ。
そしたらあいつ、船みに行くってんだ」
「この台風に?」
「そりゃ、漁師にゃ船は命みたいなもんだ。
でも、それで死ぬ奴だって毎回いるだろ。
ほんとに死んだらなんにもならんだろうに」
「やっぱり後ろ髪引かれるんじゃないかなぁ……って、
あなたは気にならないの?」
「今言ったって、どうせなにもできないだろ。
台風になる前に心ゆくまで綱まいといたし、行くだけ無駄だ」
軽い笑顔に笑い声。
「おやじ……」
おれはなんだかほっとして、
「こどものころから友達にからかわれたりして
ずっと嫌だったんだけどさ、
今だけはおやじのそこを心から誇りに思うよ」