その道を通ると、すこし幸せな気分になる。
通り過ぎるわたしに会釈するのは、笑顔のすてきなおばあさん。
――だれだっけ?
わたしも笑顔で返すけど、心当たりがまったくない。
たぶん自宅の前に立っているその人は、友達のおばあさん?
おけいこの先生? そんな感じじゃないみたいだけど……。
そしてある日から、ぱったりと姿を見かけなくなって。
「最近ずっと見かけないんだけど、どうしたんだろ」
ふと家でもらすと、
「え? だれ?」
おかあさんに訊かれた。
「誰って……わかんないんだけど、いっつも挨拶されるんだよね」
「駅行く途中の角の家のおばあさん?」
「そうだけど、知ってるの?」
すると楽しそうに笑って、
「わたしも挨拶されて、だれかと思ってたんだけど。
通る人みんなにあいさつしてたみたい」
「ええ〜、そうなの?」
「うん。最近見かけないって話が出たら、
他の人もみんな知ってて」
へええ、ちょっとした有名人だ。
「で、どうなの? 今は」
軽く目を伏せるおかあさん。
「……このまえ、亡くなったんだって」