濃い殺人状況を描いたサスペンスドラマが人気を集めていた。
そこで脚本ではなく、脚本家自身に
テレビカメラが向けられることになった。
彼は言う。
「ずっと不満だったんですよ。軽く刃があたっただけで
血を出して死ぬとか、水につけただけで窒息死するとか。
あんなんじゃ手術受けた人なんてみんな死ぬし、
プールの中は死体だらけじゃないですか」
マイクを向ける女性は言った。
「その点、お書きになったものはずいぶんとリアルですよね」
「あたりまえですよ」
彼は得意げに笑みを浮かべ、
「あんな適当に想像で書いたのと比べられるのも不愉快です。
ぼくのは長年やってきた殺しの実体験が生きてるんですから」
その後、彼の脚本も彼自体も世の中に出ることはなかった。