0745
2006-08-09
あふれてこぼれて
 教育実習で保育園に行った。
 小さなこどもたちはみんなかわいいけれど、
とりわけかわいい女の子がいる。
「あそぼー!」
 にこにこと見上げられると、
何を置いても構いたくなってしまうほど。
「ほーら、くるっと返してうさぎさーん」
 手袋で簡単にうさぎ人形を作ると、
「わー、かわいいー」
 中のわたしの手ごとぎゅっと頬に寄せて、キスをする。
 そんなこの子のほうがずっとかわいくて、
一緒にいるとなんだかとろけてしまいそうになる。

 でもなんでそんな風に思うんだろう。
 おねだりがうまい? 感情表現が上手? 
……そんなことじゃない気がする。
 そこで質問をぶつけてみたところ、先生は笑った。
「あはは、あの子、かわいいよね」
「先生も思います? でも、なんででしょうね」
 するとすこしだけさみしい顔。
「たぶん、お迎えを見ればわかると思うよ」
 次の日、お迎え時はばたばたするけれど、
気をつけてあの子を追ってみた。
「おかーさん!」
 短い足で一生懸命かけていき、スーツ姿の女性の元へ。
 おかあさんらしい人は小さな体を抱き上げると、
「ただいま〜」
 ぎゅっと抱きしめ、キスをする。それはそのまま、
どこかで見た光景。
 瞬間、わたしにも理由がわかった。
 愛されて愛されて。愛されることも愛することも知ってるから、
あんなにいとしくて、あいらしい。
 じゃあ、知らない子は?
 そう思うと、なんだかすごく、切なくなった。