今期からの新人教師のクラスでいじめが発覚し、
彼女が対処するのを見守ることになった。
職員室に呼び出した一人がやってくると、
彼女は座ったままこどもの方へ向き、目を合わせる。
「どうして呼び出したか、わかるよね?」
神妙な顔でうなづく児童。
彼女はなにかを言いかけ……何も言えないまま、
その瞳から涙をこぼした。
ぬぐってもぬぐっても涙は止まることはなく、
「ごめんね。今は戻ってて」
それだけをなんとか口に出すと、そのまま泣き続けてしまう。
わたしはそばに寄り、声をかけた。
「だいじょうぶですか?」
「すいません」
うつむいてハンカチを目元にあてたまま。
「どうしたんです?」
さらに訊ねると、
「あの子……すごくいい子なんですよ」
くぐもった声が返ってくる。
「授業中だって、騒いでる子がいればいさめてくれるし、
本人だって勉強も一生懸命だし、
クラスの役員だってやってくれるのに。
あの子がいると、まわりに筋が通るような、
雰囲気のある子なのに。
なのになんでいじめなんかしなきゃいけないかと思ったら……
なんだかすごく、悔しくて」
またこみ上げるのか、声が揺れる。
「見てるつもりになってたのにそんなのにも気付かないなんて。
わたし、教師失格ですね」
「そうですかね」
思わず言っていた。
他の先生や親御さんたちはいじめに気付かなかったと責めた。
でも、気付かなかったのではなく、
見えなかったのではなかったんだろうか。
だれだって好きな相手の欠点には気付きにくいものだ。
「先生は、そのままでもいいのかもしれませんよ」
きっと彼女は――こどもを愛していたから、
見えなかっただけなんだ。
それはすこし悔しく、そしてすこしだけ、うらやましかった。