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2006-08-10
洞悉・資質
「先生ってさぁ、意外と楽な商売だよね」
 と、放課後の教室で生徒から言われた。
「なに言ってんだ。お上からは朝令暮改に
アホな命令出されてそのたびごとに
今までの授業指導案を書き直すし、生徒からは文句言われるし、
こどものしつけもできない保護者からは
学校でしつけまでしろなんて意見も来るし、
力ある先生からは無駄な圧力がかかるんだぞ」
「でも、基本的にクビってないでしょ?」
「なるような話もあるみたいだけど」
「じゃあ、キモ、首になる?」
 キモ。気持ち悪いが通り名の、あの先生か。

「いや、あれは無理だ」
「なんでぇ?」
「君らから見たら、学校内の区分は『生徒』対『教師』みたいに
見えるだろ? ところが実際は違う。
『生徒』・『権力のない教師』・『権力のある教師』だ。
キモ先生は力のあるほうだから、
直接なにか事件でも起こさない限り、絶対首にならない」
「プール前の更衣室とか、男子のとこと間違えた、って
何度も入ってくるのに、だめなの?」
「だめだろうなあ」
「どうして?」
「だって、あの人がだめだって、だれが評価する? 
悪い先生を首にするしくみができたって、
評価する側は力のあるほうだぞ?」
「え〜? それっておかしくない? 
なんで先生が先生を評価するの? わたしたちの意見は?」
「ごみ。そしてぼくらの意見も、ごみ。
おかしい先生のことは生徒が一番よくわかってるのにね」
「え〜」

「君たちはいい先生、悪い先生について勘違いしているらしい」
「なんなの?」
「先生の資質ってのは、指導がうまい、人がいい、じゃない。
どれだけ上にへつらって力を得られるように
振舞えるか、で決まるんだ」