夏休み明け、いつもの講義は次回からにして、
この『生命と倫理』の授業で原爆直後の記録映像を
見せることにした。
それは、悲惨という言葉などではかたりつくせないほどの
むごたらしさだった。
建物は吹き飛び、溶けて曲がり。それが衝撃だけではなく
激しい熱を伴っていたことを語る。
出てくる人々は、それが人かどうかもわからない。
白黒という限界のせいでもなくみな真っ黒で、
ある者は頭はくすだまのように膨れ上がり、
またある者は体にも服がついているのかいないのか、
男か女かすらわからないほどだった。
見始めてからだんだん目をそらす生徒が増える中、
最後まで熱心に見ている留学生がいた。
「ずいぶん熱心に見てたけど、どう思った?」
映像が終わり、訊ねると。
「白黒で画像も悪いし、ストーリーも全然ないけど、
モンスターはよくできてたね」
笑顔を浮かべる彼。
「なにを……?」
わたしは思わず口にした。
「これは史実の映画だよ? 君たちの国が落とした爆弾が
もたらしたまぎれもない真実なんだ」
気軽に笑うと彼は言った。
「その設定ははじめにも聞いたよ」