0786
2006-08-22
 告別式の前、亡くなったおじいさんの
最後のお風呂の時間がやってきた。
 運びこまれる小船のようなもの、そしてその上に張る網。
昔は体を拭いたというけれど、今はこうするものらしい。
 おじいさんをその網の上に横にすると、
見るのが忍びない人のためについたてが置かれ、
わたしと母はその横に中の様子を見に行った。
 ついたての中では、さらに体を隠すように布を持つ人。
わたしたちから見えるおじいさんは、
頭を洗ったあとの美容院のように小粋に頭をくるんで
体にお湯を受けているらしかった。
 仰向けで体を流し、横向きで背中を流し。
二人がかりで体を洗う。
 ――あれ? 今ってなんだか……
「なんだか、ずいぶん気持ちよさそうだねえ」
 おかあさんの ほっとした声。
 表情なんて、もう変わらないはずなのに。