どうしても会いたくなって、
駅まで行って仕事帰りの友達を待った。
どれだけの時間か、ぼんやり眺め続けた人の中から
懐かしい顔がわたしに向く。
「どうしたの? めずらしいね」
近づいてくる友達に思わず抱きつくと、
やわらかなにおいがわたしを満たす。
「いいにおい」
ぎくっと体を硬くした友達はわたしをはねのけようとする。
「やっ、やだ。今あせっぽいよ」
でもわたしは鼻をうずめる。
「いいにおい。あったかーい。やわらかい……」
ほおずりするわたしにあきらめたような息をこぼし、
「どうしたの? ……なんのにおい?」
「お葬式行ってきた」
ぴくっとゆれる筋肉。生きている体が雄弁に心を語る。
「おじいちゃんが……すごく、怖かった。
それに、すごく臭かった……」
「しょうがないよ、しょうがない」
わたしの頭をなでる手。
「ね」
「うん?」
「死んじゃ、やだよ」
ふっと息をもらすと、
「だいじょうぶ、死なないよ」
わたしの頭に頬を重ねた。