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2006-08-25
魂魄
 ――魂って、どこにあるの?
 お葬式のさなか、難しい顔をしていた妹が訊いた。
「どうして?」
 たずねると、
「だって、おじいちゃんが亡くなったあと、
うちの中でおじいちゃんが来たみたいな音がしてたって
おかあさんもおとうさんも言ってたでしょ? 
その前はおばあちゃんがおじいちゃんと一緒にいたって言うから、
そのあとでうちに来たんだと思う」
「うん、そうだね」
「でもさ、おかあさん、むかし火葬場で煙突の煙を見てたら
青白いきらきらが上がって行って、それが魂だと思ったんだって」
「うん」
「じゃあさ、おじいちゃんの魂は、
わたしたちのところに来たあと
また戻ってきて、いまも体に戻ってるの?」
 わたしは祭壇にまつられるおじいさんのお棺を見た。
「うーん、どうだろ。わたしはきっとそこらへんにいて、
『もういいよー、わざわざありがとなあ』って言ってると思う」
「でも、さっきおかあさんは、いまごろ天国で
みんなと一緒にいるって言ってた。
……じゃあ、お祈りやなんかって、何をやってるの?」
 すがるような目がわたしを見る。
 はたからすればつまらない矛盾かもしれない。
でも妹はおじいさんが亡くなったこと、それにゆらぐ自分の心に
折り合いをつけようと必死なんだろう。
 もしかしたら、昔の人もそんな風に考えたのかもしれない。
「純粋なこころ、魂は空に。情動や生きた感情の魄は、まだ体に。
死ぬのはつらかったでしょう、怖かったでしょう? 
家族と離れるのは嫌で、まだいたいと思うでしょう? 
ことによっては、誰かに一緒に来て欲しいなんて
願ってしまうかもしれない。その想いが天に行く魂さえ
引き落としてしまうかもしれない。空のきれいなところにある魂、
そして揺らいでしまいそうな魄、きっとどちらも
清らにあるように、わたしたちは、祈ってるんだと思う」
 すこしだけ、ほっとした瞳。
 軽く頭に手をあてて、わたしはこつんと額を寄せた。