平日の昼間、家庭教師先の子を誘って車で出かけた。
すこしおめかしした彼女を連れて行くのは、
このまえ目星をつけた場所。
「わあぁ、かわいい〜!」
大きな門をくぐるなり、彼女は声をあげた。
レンガ造りの道に建物、目を上げれば時計塔。
すこしすすめば手入れされた庭があり、
その中には優雅なお茶会でも開いていそうな東屋まである。
まるでここだけがいきなり外国に
なってしまったような雰囲気に、
「ねえ、先生、見て! かわいい」
普段ではすこし浮いてしまいそうな
ふわふわの服を気にしていた彼女が、
走り出しながら笑顔を見せる。
「うん、知ってる」
軽く手を振って応えながら、ファインダー越しに、
ファインダーなしにその姿を追った。
整然と並ぶ小さな小さな一戸建てのドアをノックし、
ドアを開けては入っていく。
「すごいよ! 中にかわいい椅子にベッドもあるんだよ」
それが礼儀のように腰をおろしてはぎこちなく座る姿は、
まるで小人の国に迷い込んだお話の子みたいだ。
「ああ〜! こんなかわいいの、見たことない」
うれしそうにきらきらとほほえむけれど。
――でも。どこにいたって、何を見たって。
彼女は決して知らないんだ。
世界で一番、かわいいものを。