0800
2006-08-28
生命の網
 おじいさんのお葬式が終わり、家に戻って一息。
 短い間にたくさん会った、今まで見たこともなかった
親戚を思い出してみる。……けれど。
「ねえ、最後に手を振ってたおじさんって、
おじいちゃんの弟さんだっけ?」
 おかあさんに訊くと、
「違う違う。あなたから見ておじいちゃんの、
三番目の弟の息子さん。
わたしからすればいとこ」
「ええ? じゃあ……」
 メモ帳を出して、小さく家系図。
「こういうこと?」
「う……ん、と。そうだね」
 のぞき込んでうなづく。
「一番目と二番目の人もいた?」
「二番目の人は入院中で……って、
その言い方だとわかりにくいかな。
おじいちゃんだって長男じゃないでしょ」
「えええ。じゃあどうなってるの? 
わかるとこだけでも言ってみてよ」
「え〜。わたしも全部知ってるわけじゃないけど」
 聞きながら書き始めると、すぐにメモ帳では足りなくなって、
大きな紙をひっぱりだした。
 わたしやわたしのきょうだい。おかあさんのきょうだい、
そしてそのこども。
 おじいちゃんにおじいちゃんのきょうだい、
そのこどもと、さらにそのこども。
 おばあちゃんにはおばあちゃんのきょうだいがいて、
こどもがいて、またこどもがいる。
 紙は、それだけでいっぱいになってしまった。
「はは、楽しそうなことやってるな」
 後ろを通るおとうさんの声。
「実はうちの方とおかあさんの祖先とは昔一緒だったんだぞ」
「ええ、ほんとう?」
 おかあさんと振り向くと、
「人類の始祖がいたって、うちらはみんなそこに
つながってるんだから」
 いたずらな笑顔。
「くだらない〜」
 おかあさんはあきれたようにため息をつくけれど、
わたしの頭の中には電気のような衝撃が走った。

 そう、ほんとにそうだ。途中のだれがかけても
わたしは生まれなかった。脈々と欠けることなく
生を受け継いできたその一端に、わたしはいる。
わたしは……わたしの中には、すべての祖先、
すべての人間の進化があるんだ!
 どきどきと手が震えた。わくわくと心が躍った。
 わたしは一人じゃない。わたしの世代にだって、
血のつながりだけで何人もの人がいる。
家系は樹状図だというけれど、そんなじゃない。
幾重にも重なり合い、結びつきあう、シナプスのように。
むしろ網の目のようにはりめぐらされながら、途中で切れ、
また別の網とつながり、果てしなく大きな広がりをもって
存在している。
 はじめの人が生まれ、その人から投げられた網。
投網のように広がっていく人間の命は、
その中に何をとらえようとしているのだろう。
 そう考えると、はるか規模の大きさに、
なんだか頭がくらくらとした。