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2006-08-30
神にもすがる
 男が手にした紙袋から札束を取り出し、賽銭箱に入れていた。
 その様子に気付いた巫女がそばに寄り、
「なにかおありだったのですか?」
 訊ねると男は答えた。
「娘が病気で、手術が必要になりましてね」
「ああ! では、良くなられたのですね」
 ほっとした声に、
「いや」
 男は紙袋を置くと、横にある一抱えもあるような箱を開ける。
「すぐにでも手術しなきゃならないんだが、お金が足りなくてね。
あちこちに頭も下げたし、家も売った」
 箱の中身を掴んでは賽銭箱に入れていく男。
彼女は、その中身がすべてお金だと知った。
「まっ、待ってください。ではそんなにお金を入れてしまっては
手術できなくなってしまいますよ」
 だが男は顔色も変えず、ただ、手を動かし続けた。
「あったって手術なんてできないんですよ。
こんなに金があったって、たったの半分。
ほんのすこしでも足りなければごみとおんなじ。
手術するわけにはいかないんだとさ」
 男の手がいくぶん乱暴になっていく。
「なにがごみだ! どんなにして集めたと思ってる。
この金がなければ入院費も、わたしたちの生活費も払えない。
わたしたちの命も同じなのに!」
 頬に涙を伝わらせ、食いちぎるように男は言った。
「だから、もう、これしかない。神でも仏でもいい。
足りないなら命だろうがなんだろうが全部やる! 
だから……あの子を、生かしてやって欲しいんだ……!」