男が手にした紙袋から札束を取り出し、賽銭箱に入れていた。
その様子に気付いた巫女がそばに寄り、
「なにかおありだったのですか?」
訊ねると男は答えた。
「娘が病気で、手術が必要になりましてね」
「ああ! では、良くなられたのですね」
ほっとした声に、
「いや」
男は紙袋を置くと、横にある一抱えもあるような箱を開ける。
「すぐにでも手術しなきゃならないんだが、お金が足りなくてね。
あちこちに頭も下げたし、家も売った」
箱の中身を掴んでは賽銭箱に入れていく男。
彼女は、その中身がすべてお金だと知った。
「まっ、待ってください。ではそんなにお金を入れてしまっては
手術できなくなってしまいますよ」
だが男は顔色も変えず、ただ、手を動かし続けた。
「あったって手術なんてできないんですよ。
こんなに金があったって、たったの半分。
ほんのすこしでも足りなければごみとおんなじ。
手術するわけにはいかないんだとさ」
男の手がいくぶん乱暴になっていく。
「なにがごみだ! どんなにして集めたと思ってる。
この金がなければ入院費も、わたしたちの生活費も払えない。
わたしたちの命も同じなのに!」
頬に涙を伝わらせ、食いちぎるように男は言った。
「だから、もう、これしかない。神でも仏でもいい。
足りないなら命だろうがなんだろうが全部やる!
だから……あの子を、生かしてやって欲しいんだ……!」