「なあ、おれたちってなんなんだろうな」
矢筒の中、一本の矢が声を出した。
「おれたちは射たれるためにある。
けど、そのときを長いこと待っていても……
本当の『矢』でいられるのは一瞬。弓につがわれ、放たれれば
次の瞬間には存在意義を失うんだ」
「何を言う。花火だってセミだってそうだろう?」
別の矢が応えた。
「でも、花火は一瞬で人の心を魅了する。
セミは次の世代に命をつなぐ。でも、おれたちはどうだ。
人を殺すため、何かを壊すため。他のもののように
なにかを残すことすらできないんだ。
生まれた瞬間からこんなにはっきりと死を予感する存在。
……おれは! 何のために生まれたんだ!」
沈黙があたりを包み、しばらくのあと、別の矢。
「おれは、そうは思わない。たとえどう使われようと、
放たれるために生まれたんだ。その直後に待つのが死だろうと、
おれは自分が一番おれらしい時間を迎えるのを楽しみに思うよ」
そこへ、人。いかつい顔の男が矢筒を手にし、歩き出した。
「ほら、とうとうこのときが来たぞ」
わきあがる期待と不安。矢たちはそれぞれに
一瞬一瞬を胸に刻み込みながら、迫り来るその時に備えはじめる。
そんなことはつゆ知らず、
男は部屋の中に腰を下ろすと矢を一本ずつ引き出し、
三人の息子らしい男たちの前に置いて、言った。
「さあ、その矢、おまえたちに折ることはできるか?」