中年夫婦の二人が砂漠を歩いていた。
「あ〜、あちいー。腹減ったー。水のみてー」
ぶつぶつとつぶやきながら歩く男。
彼らの飛行機が墜落し、投げ出されてから何日かが過ぎていた。
「このままじゃ命にも響いてきそうだから、
ほんとはわたしの分だったけどこれを渡しておくね」
女が取り出したのは、紙に包んだ塩と缶入りの水。
「おお!」
ひったくるように自分の手の中にそれを収め、
男はさっそく缶の蓋を開けた。
「蒸留水にはなんの栄養分もないんだから、
ちゃんと塩も取らないと汗かいて死ぬからね」
「わかってるよ」
男は塩を缶に注ぐと、よく振って一口すすった。
「塩辛い」
「当然でしょ」
彼女は舌先で塩をつつき、飲み込んでから水を含む。
「ああ、おいしい!」
幸せそうに目を細める。
「よけい喉かわかないか?」
その言葉に笑みを浮かべると、
「乾かないよ。塩水飲んでるわけじゃないからね」
「なにか違うのか?」
「もちろん。海から上がってそのままならひりひりするけど、
水を浴びたらさっぱりするでしょ? それが、今ののど」
「なんで教えてくれなかったんだよ」
彼女は飛び切りの笑みを浮かべた。
「ずーっと言ってたよねえ? ごはんを食べるとき、
なんでも混ぜて食べるのはやめてって。
そのときあなたが言ってた言葉、覚えてる?」