「わたしはねぇ、医者なんらよ」
ずいぶんと飲んだらしい女性がカウンターで
ぶつぶつとつぶやいていた。
「お客さん、今夜はもうお帰りになったほうがよろしいですよ」
交代してすぐわたしが声をかけると、
「わたしはねぇ、医者なんらよ」
聞いているのかいないのか、不満げに声をあらげた。
「身元もわからない人も家に帰してあれられるのに。
らめものらっておいしくらめられるようにれきるのに。
お金らってあるんらよ〜。ぶぁかにしらいれよ」
うつむき、眠りに落ちそうな体勢。
こんなになってまで文句を言うなんて、
よっぽど嫌な事があったんだろう。
「お客さん」
そっと肩に手を乗せると、
「むわー!」
声かうめきかよくわからない音を出して
ぐたっと頭を振り、叫んだ。
「人生のしょうしゃなんら。……ハイシャっれ ゆーなあ!」