0876
2006-09-14
残りのほう
 休日、久しぶりに仲間で集まって
話しながら酌み交わしていたら、
そろそろお開きにしようかという頃になって
まだ来ていない一人から連絡が入った。
「どうしたんだよ、こんな遅くに」
 周りの四人にも聞こえるように、
向こうの声が出るようにしてたずねると、
「急ぎの仕事押し付けられて、ようやくいま終わったところだよ」
「そうなのか。おつかれさん」
「ほんとにな」
 ため息混じりに。
「でも、うちらの世代じゃ、週六十時間以上働いてるのも
五人に一人は いるっていうし、
こんなんでめげてちゃいらんないよな」
 瞬間、おれは自分の仕事をかえりみた。
 朝は絶対一時間は遅刻して行くし、昼休みは二時間近く。
三時ごろには会社連中と菓子をつまみながら笑い話をして、
仕事の区切りがよければ日が暮れる前にも帰る毎日。
それで時間通りの給料も出るし、
上司ともども叱られたことはない。
 それが普通だと思っていたんだが……。

「い、いや、めげるくらい、いいんじゃないか?」
「そうだよ、がんばりすぎてるもんな」
「そうだそうだ」
「よくやってるよ」
 次々に言葉をつなぐおれたち。
 でも、そのときは知らなかったんだ。

 ――その場の全員が同じことを考えていたなんて。