0906
2006-09-24
さよならサンカク
 健康診断で異常が見つかり、あらためて医者に行ってみた。
 酒もたばこもやらないし、あせっかきでもない
ぼくの異常の原因は、ほぼストレスだそうだった。
 そりゃそうだ。
 食事の時間はいつもばらばら。待ち時間と自由時間を考えると
十分程度で口につめこまなきゃならない。
野菜を取れと言われても、たいていそっちが高級品。
そんなもんを食べてたら、小遣いなんておしまいだ。
 会社じゃ同僚の悪口を真ん中で聞き、社会の底辺層の
嫌味を受け、自分が悪くないことに頭を下げる毎日。
一度席に着けば最後、立つ暇もトイレに行く暇もなく
電話を受け続ける。
 週休二日は口先だけで、時間だけなら六日計算。
毎月二回は休日出勤。次の日に出勤だというだけでも
休んだ気がしないのに、実際に働かされてはたまらない。
 ストレスをためないように運動し、食事し、
負担をためこむなというけれど。
実際にできるものならやってみろ。

「ねえ、ぼくはもうだめかもしれない」
 妻にこぼすと、言われた。
「何言ってるの。みんな同じに働いてるんだから」
 ――おなじ?
 なにが同じだ? 君なんか働いてすらいないじゃないか。
 仕事を変えようと思っても、やめた後の食い扶持を考えると
ここで働いてくしかないってのがわからないのか?
 みんな同じに働いてたって、どこが限度かはそれぞれ違う。
一日三時間寝れば充分な奴と、毎日八時間は寝ないと
もたないぼくが、同じに働き続けられると思うほど、
君は考えなしな奴だったのか?
 それともなんだ。みんなと同じに働けないのなら、
ぼくはくずだとほのめかしてるのか?

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう! 
お前はなんなんだ! みんな同じってなんだ! 
みんながみんな、同じに平気で働いてるのなら、
なんで交通事故の三倍以上も自殺している奴がいる?

 ……ああ、そうか。
 追い詰められた逃げ口は、みんなそこしかなかったのか。

 いつもの会社に向かう道。駅はいつもと反対側へ。
 迫る電車を見つめつつ、ぼくは自分の身を投げた。
 社会に加わりたかったけれど、ぼくに資格は無いらしい。

 ――さよなら、社会。さよなら参画。生きる資格が欲しかった。