「ああ、そうそう」
いつものように書類をパソコンに打ち込こんでいたとき、
ふと思い出して口を開いた。
「今まで社長なんて会ったこともないし、
会社の仕事内容もいい加減なものをそのままにしておくから
どうでもいい存在だったんだけどさ。
この前社内用のネットにあったページ見たら考えが変わったよ」
「へえ、どうだったんだ?」
ききかえす同僚に、
「すごい洒落を平気で言えるその態度には感心したね」
印刷しておいた紙を渡す。
『わきあいあいとした、なんでも言い合える
わが社の自由な風土を活かし、
よりよいものづくりのための意見を募集します。
諸君らが持っているいい考えを遠慮せずに応募してください。
メールや社内便で社長宛まで(匿名は却下します)』
「あはははは! こりゃ傑作だ」
「だろ?」
二人で笑っていたら、
「ちょっと、ねえ……」
気付くと室長が横にいて、胃の痛そうな声で呼んだ。
「たまに課長や係長もくるんだし、
私語はやめて仕事だけしてくれないかな」
「仕事はちゃんとやってますよ」
おれが言うと、
「うん、わかってる。でも部屋に私語や笑いがあると、
上から改善要求が来るんだよ」