修理部門の人から連絡があって、
お客さんに電話をして欲しいと言われた。
なんでも海に完全に水没したデジタルカメラを、
いくらかかってもいいから直してくれと送ってきたとか。
電子機器が苦手なものはいろいろあるけれど、
湿気どころか水没した上、金属を腐食させる塩水。
これが真水ならうまく乾かせば使えるかもしれないけれど、
塩水じゃいくら洗ってもどこかに取り返しのつかない
故障の種が残り、いつか芽が出ることになる。
「どうにか、修理するわけには?」
電話の向こう、お客さんは言った。
「修理はできかねます。当方としましては
お買い直しをおすすめいたしますが……」
「簡単に言わないでくださいよ!
あれは大事な思い出の品なんです!」
そんなに大事なら、落とさずに大事に扱えばよかったのに。
「お金ならいくらかかってもいいんです、
どうにか、どうにか修理してください」
そこまで言われてはしかたがない。
その旨を修理部の人に伝えると、
「……って言われてもなあ。
デジカメの心臓部がとりかえし効かないほど痛んでるのに、
どうにか直せってのは無理ですよ」
と修理の人。
「じゃあ、外装だけ変える……というのはどうでしょう?」
「外装? 外だけ同じでも、中が違ったら別物じゃないですか」
「ええ、わかっていますけど、もしかしたら」
しぶしぶ納得して、電話が終わる。
中身をまるまる変えるので新品を買うだけの値段がかかり、
さらに人件費までかかってしまう修理。
どうなるかと思っていると、その後。
『できないと言われた修理を引き受けていただき、
ありがとうございました。本当に大切なものだったので、
これがまた使えるようになって嬉しいです。
本当に、本当にありがとうございました』
あのお客さんから会社に届いた手紙。
喜んでもらえて嬉しいけど、修理の人がこれを見たら、
きっとやりきれない気持ちになるだろうなあ……。
軽く苦笑いをして、それ以上考えるのはやめにした。