「ねえ、彼って今日、どうしてた?」
土曜の夜、友達から電話。
「ええ? 彼って、わたしの?」
「うんうん」
弾む声を聞きながら、すこし思い出してみる。
「ん〜。昨日か今日か忘れたけど、
友達と遊ぶって聞いたような聞いてないような」
「じゃさ、駅前のファミレスで食べたりする?」
「ええ? うーん、そりゃあ行くことはあると思うけど……」
「わぁ〜! むふふふふふ」
「なんなの?」
よくわからない歓声に訊ねると、
「ふっふっふっふ」
受話器の向こうからいやらしい笑い。
「今日ね、たぶん彼みたよ。斜め後ろの席にいた」
「へええ? あ、チャーハン食べてたら、たぶん本物」
「……知らないよ、そんなの。って、そうじゃなくてさ。
えへへへへへへ」
「もう、なんなの? さっきから」
「それがねぇ、ふふふふふ。感謝してよ」
「で、なに?」
もったいぶられるのもそろそろ限界で促せば、
「あう。それがさ、彼がね、友達の前で、
あなたのこと……好きだーって言ってたよ」
自分で言うのも恥ずかしいように変な笑いで口にする。
「あはは、うそだぁ」
「む。ほんとだって」
真剣みを込めた声。
「なんかいつかの連休に、ライブの券余ったから
一緒に行こうって誘われてて。そこで断って言うんだよ。
『だれか知らない他人全部に笑う空っぽの女なんてどうでもいい。
どんなにこっちが見つめたって、向こうはこっちのことなんか
目に入らないんだぞ?』って」
「あはは、うん、彼っぽい」
「それからさ、『そんなのに時間使うよりも、
そばにいて笑ってくれて話してくれる人と一緒にいたい』、
だって」
普段の彼を思うと、つい笑ってしまう。
「あははは、まっさかぁ」
「ほんとだって! しかもみんなから
『彼女ができてから変わった』って冷やかされてたら……
『どうやっても――彼女が一番好きだから』って」
彼の真似なのか、お芝居がかりながら友達は言った。
「あは、うそだ。絶対うそ」
「なーんでよぅ」
ふくれた声が、急に不安げになって。
「もしかして、彼と仲悪いの?」
「ええ? そんなことは、ないと思うけど」
次の日。
彼に電話して、話の中で訊いてみた。
「ね、わたしのこと、好き?」
すると彼は言いよどみ。ためらったあと、口にする。
「……嫌いだったら、一緒にいないよ」