法事のたびに口うるさく注文をつけてきたご老体
が亡くなったらしい。
なかなか迷惑なお人だったが、
亡くなってしまえばさみしいものだ。
ご家族と式について話していると、
その方の奥さんがかしこまった様子で封筒を差し出す。
「これは?」
「夫が、戒名料にと」
中は札が何枚か。
「もうしわけありません。たかが名前で坊主に渡す金は
これで充分だと申しまして……」
痛々しく下げていた頭を上げると、
「でも、立派なご戒名をいただきたいのです」
すがるような目で訴えた。
――やれやれ、死んでまで迷惑な人だ。
ため息混じりにお受けしようとしたとき、
「おいおい、しみったれたこと言ってんじゃないよ」
ご親族のひとりが口を開いた。
「あいつは人の美容院に来ては、やれ切り方が違うだの
どっちが短すぎるだのいちいち言う腹の立つやつだったけどな。
死んじまえば恨みっこなしだ。その金ならうちで出すから、
ひとつ立派な名前をやろうじゃないか」
なかなか殊勝な方もいたものだ。
ここはその方にも敬意を表し、考えなければならないな。
そしてわたしは一つの名前をしたためた。
『美容院一言居士』と。