0942
2006-10-05
はまる
 半年ほど別の支店に赴任していた同僚が
、おれの隣に戻ってきた。
「どうだ? いない間になんかあったか?」
 朝。ペットボトルの水を傾けながら訊かれ、
「いや、別に。いつもどおり忙しかっただけ……いや」
 答える間にペットボトルで思い出す。
「そうそう。仕事とは関係ないけど、
自販機の種類が色々変わっててな。
ロビー奥の販売機で売ってる水に課長がはまってたぞ」
 おれが言うと、
「へえ。じゃあ飲み終わったら買ってみるか」
 いかにも楽しみな声が返ってきた。

 昼休み。外で買ってきた同僚の弁当の横には、
あの水のペットボトル。
 見る前で蓋を開け、口をつけて一気にあおる。
 そして、すぐに。
「うっわ、まずい」
 なんとか飲み込んだ感じで不愉快そうに口をぬぐい、
「どこがうまいんだ。……はめやがったな!」
 おれは満ち足りた気分で言ってやった。
「ちゃんと言ったのに、わざわざ罠にはまるとはなあ」