0945
2006-10-06
たしなみ
「ああ、そだ」
 友達と電話していて、ふと思い出した。
「どうしようもないその場で言うのも粋じゃないと思って
黙ってて今まですっかり忘れてたんだけど」
「うん」
「この前の初詣のときも、着物のあわせが逆だったよ」
「ええ〜。……って、そんなの全然気にしてなかったけど」
 ええ〜、とわたしがためいき。
「この国のたしなみだよ。
左前だったら死人になっちゃうじゃない」
「左前、ってどっち?」
「右の布を左の布に重ねる感じ」
「右を……左に重ねると……」
 何かで試しているのかつぶやいて、
「それ、右が前じゃないの?」
「あ〜。じゃあ、右手を懐に入れられるあわせ、でどう?」
 すると友達は訊ねた。
「だれの?」