0975
2006-10-13
ムサベツサベツ
「ねえ、これ、読んでみる?」
 わたしの大好きな友達が、一冊の本を差し出した。
 それは確か、身体に不利な条件を持った人が書いたという
売れ筋の本のはずだ。
 普段こういうのは読みそうもないあの子が、
普通ならこういうのは嫌いだとわかっているわたしに
勧めるなんて、どんなに面白かったのだろう。
「あ、うん。ありがと」
「なーんも」
 彼女は薄い笑みで返した。

 帰ったわたしはさっそく本を開いてみる。
 あの子が読んだ本、あの子の部屋の空気。
どんなことを思いながら読んだんだろう?
 そんなどきどきに紙をめくっていたけれど、
すぐにうんざりとしてきた。
 特に面白くもない内容。ハンディキャップを持っていることを
逆にひけらかすように述べられていく文章。
 これが……なんなんだろう?

 次の日。わたしは本を差し出し、声をかけた。
「あ、読んだ?」
「これ、面白かったから薦めたんじゃないよね?」
「うん!」
 にこっと輝く笑顔。
「おかあさんが惑わされて買ってきたんだけど、
おもしろくないってわたしにくれて。
しかたなくて読んでみたらほんとにおもしろくなくって。
せっかくだから、どんなにおもしろくないか
読んでもらおうと思って」
 ああ〜。おとなしやかな雰囲気からは
予想もつかないこの性格がたまらない。
「どうだった? おもしろかった?」
 罪もなく覗き込む目。
「ううん。もし書いたのが障害者じゃなかったら、
ここまで売れなかったし、だれも読まなかったと思う。
正直気分悪かった」
「だよねえ! 逆に世間がそう言わずにもてはやすのが
すごく不思議。書いた人は、これで障害者への
偏見や差別がなくなれば嬉しいです、って言ってたみたいだけど、
障害者への偏見と差別がなかったら
こんな本売れもしないのにねえ」
 辛辣な彼女の物言いに、わたしはぞくりと身を震わせた。