彼らは彼を囲むと、「臀部を見せるように」と言いながら
彼のズボンを下ろそうとした。
「なにこれ……」
思わずつぶやくと、
「だめでした?」
わたしの前、手元を覗き込みながら
不安そうな目でたずねる彼女。
「だってね」
わたしは応える。
「わたしだって、あなただって中学生。
あなたが書いたこの子たちだって中学生でしょ?」
「はい」
「そしてこれはいじめの場面を書こうとしてる、と」
「はい」
「それで……。まあ、わたしだって文芸部の部長とはいえ、
実績なんてなにもないから偉そうなことは言えないんだけど。
でも、これ、頭の中だけでもいいから音読してみた?」
「いいえ」
そこでわたしは紙を置くと立ち上がり、
彼女のスカートのすそに手をかける。
「へっへっへ。ほぉら、部のみんなに
あなたの臀部を見せるように」
「え……え?」
体をこわばらせ、おびえた目がわたしに。
「どう?」
訊ねると、一瞬間が空いてから気付いた顔。
「ね? いじめをする人間のセリフじゃないと思わない?
どうせ言うなら、『ほら、てめえのきたねえケツ、見せてみろよ』
とかじゃない? それかいっそ地の文で
『彼らは臀部を見せるようにと彼に迫った』って書いちゃうとか。
かぎかっこの中は発言をそのまま書くって知ってる……よね?」
「知ってますけど、ほんものっぽく書こうと思って」
「ほんもの?」
そして彼女が示すもの。アイデア用にと
わたしが職員室からお下がりでもらっては置いておく――。
「あのね」
思わずもれるため息をとめられないままわたしは言った。
「それ、むしろにせものだから」